2014年9月25日木曜日

怒れる二人の老婦人

定常状態システム (steady state economy)
先日、NHKのBSドキュメンタリーで興味深い番組をみた
Two Raging Grannies (ノルウェー2013 Faction Film)という番組で、直訳すれば「怒れる二人の老婦人」といったところだが邦訳は何故か「はつらつおばあちゃんが行く」であった。
題名は別として内容はシアトルに住む二人の老婦人が「経済成長」とは何だろうといった疑問ではじまり、エコロジー経済の専門家などからヒヤリングをする。今の社会は倒れないように一生懸命経済というペダルを漕ぎつづける自転車のようなもので問題はその先に深い崖がある事にみんなが気づいていない事だと教えられこのまま経済成長にこだわっては社会は崩壊すると確信する。そして経済成長の権化であるウォール街に二人で乗り込みパーティで無理やり脱経済成長のスピーチを強硬するが追い出される。それでもめげずに大学の広場で脱経済成長のスピーチをするが周りの学生にはほとんど無視されてしまう。それでも二人は経済成長が問題であると叫び続ける。

二人に多くの時間は残されてないが孫の時代のために種をまかなくてはならない。
といったストーリーであった。

この番組の中でエコロジー経済学者 ジョシュア・ファーレイが「定常状態システム」といった言葉を説明していた。経済成長をしなくても定常状態を維持すれば社会は進歩する。定常状態とは簡潔に言えば天然資源を採取し経済活動に用いたあと廃棄物として自然に返すという営みのスピードを定常化するということであった。
そのためのルールは下記の3つだと言っていた。
  1. 再生可能な資源は再生するより早く使ってはならない。
  2. 廃棄物は環境が吸収するより早く投棄してはならない。
  3. 再生可能な品物を開発するスピードより早いペースで再生不能な品物を使ってはならない。
経済活動は地球環境を維持できるレベルに抑えなくてはならないがそれでもなお人類は進歩できるはずで、価値観を成長の割合から進歩の質へとシフトさせる必要があるといっていた。
これはまさしく私がこのブログで述べている成熟社会のイメージである。
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番組の中でロバート.ケネディのGDPについてのスピーチ(youtube)が紹介されていたがこのスピーチもとても興味深いものであった。


ジョシュア・ファーレイ
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  「定常経済」について考える steady state economy (旭硝子財団HP)

私たちが求めているもの、そして国が提供すべきものは、持続可能で幸せな社会です。経済成長は、貧しい時代に幸せを得るための「手段」ではありましたが、それ自体が「目的」ではありません。

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「後日追記」
先日、プラネタリーバウンダリーという講演を聞く機会があった。
Dr. Johan Rockström(ヨハン・ロックストローム博士:スウェーデン)が提示したもので
人類が地球システムで生存できる範囲の限界=プラネタリーバウンダリー(Planetary Boundaries)がどこにあるかを把握することが重要であり、それによって壊滅的な変化を回避し限界内の成長(プラネタリーバウンダリー内での繁栄)ができるとし、人々と地球の新しい方向性(持続可能な開発目標)を示すという内容であった。

これも前述の「定常状態を維持すれば社会は進歩する」という考え方に近いものだと感じた。

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平川克美氏:経済成長だけでは幸せにはなれない



「物」を中心とする規模の拡大から、倫理や心を重んじる新しい経済システムへ移行する
­ための処方箋を、ゲストの平川克美氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の­宮台真司が議論した。

2016/01/09 に公開
http://www.videonews.com/
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平田オリザ×津田大介「下り坂をそろそろと下る《普遍的な技術に依存しない発想》」2016.05.16


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先日(2016・3・15)NHKクローズアップ現代で“仕事がない世界”がやってくる!? という特集があった。
広井良典(千葉大学法政経学部教授)が出演し、今までの成長社会を前提とせず世界で初めて迎える人口減少社会に我々はどのように対応すべきかが重要であるといった内容であった。
広井氏には「ポスト資本主義」、定常型社会―新しい「豊かさ」の構想 などの書籍がある。
またwebで公開されている「拡大・成長」から「定常」の時代へ!なども大変興味深い内容であった。

[以下一部要約]
人類の歴史は、人口と経済が成長する「拡大・成長期」と、持続可能で文化的な発展が見られる「定常期」を交互に繰り返してきた。
 1度目の「拡大・成長期」は 誕生したばかりの人類が、狩猟・採集によって個体数を増やしてきた時期。
約5万年前、獲物や収穫物をとり過ぎた結果、食料問題・環境問題に直面し「定常期」に入る。
この時代に生まれたのが、ラスコーの壁画に象徴される文化の萌芽である。

 2度目の「拡大・成長期」は、約1万年前の農耕とともに始まり人口が爆発的に増へ、余剰生産物によって社会が階層化し、権力・国家の原型が生まれた。
紀元前5世紀ごろ過剰な食料生産は土地から生産力を奪い土地が痩せ、また食糧問題・環境問題に直面し、2度目の「定常期」に移行する。
精神革命が起こり、インドでは仏教が、中国では儒教や老荘思想が、ヨーロッパではギリシャ哲学が、中東では後のキリスト教につながるユダヤ教が生まれた。

3度目の「拡大・成長期」が、ここ300年から400年続く経済活動の拡大。その象徴が18世紀後半から進展した産業革命である。
この3度目の「拡大・成長期」が行き詰まり始めたのが、20世紀後半。人類は今、3度目の「定常期」の入り口に立っている。



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 動け、稼げ、ノルマを連成せよ、笑顔で顧客をゲットせよ、そして経済成長を止めるな。

これが現代経済の鉄則である。それから逃れることと、それに順応することと、どちらが狂っているのか。経済成長が下降に向かう今、別に私たちは経済成長を愛しているのではなく、そのためにー回限りの人生を捧げる必要もないことに気づき始めている。

気づく時間と気づく場所が生まれること。市井の人びとの川が流速を上げる屋史的条件は、そんな環境が整ったときである。

[シリーズ疫病と人間] 歴史学者 藤原辰史 毎日新聞20200829 より